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東京地方裁判所 平成9年(タ)774号 判決

原告 A1

右訴訟代理人弁護士 渡辺公夫

被告 A2

右訴訟代理人弁護士 船橋茂紀

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  原告と被告とを離婚する。

二  原告と被告の長男B(昭和五五年九月一二日生)及び二男C(昭和六〇年五月二〇日生)の親権者を被告とする。

三  被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  原告(昭和二五年一一月一〇日生)と被告(昭和二六年五月三一日生)は、昭和五〇年五月二〇日に婚姻の届出をした夫婦であり、その間に長男B(昭和五五年九月一二日生)及び二男C(昭和六〇年五月二〇日生)がある。

二  原告は、離婚原因として、被告が婚姻当初から常識を越えた浪費を続けたため、「婚姻を継続し難い重大な事由」があり、婚姻生活は既に破綻していると主張し、離婚並びに慰謝料五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年一月一八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

三  被告は、原告の主張するような浪費の事実はなく、また、被告に離婚の意思もないこと、他方、原告は、家族を捨てて愛人との生活を送り「不貞な行為」をしている有責配偶者であるから、原告の被告に対する離婚請求自体が失当であると主張した。

四  争点

1  被告の浪費により婚姻を継続し難い重大な事由が生じているか

(原告の主張)

(一) 原告は、預金の管理を全て被告に任せていたが、被告は異常ともいえる浪費をし、以下のような不動産等の売却による預金等があったにもかかわらず、その大半を引き落として隠匿または費消した。

すなわち、原告は、平成七年三月から六月にかけて、広尾ガーデンヒルズ及びサングリーン南浦和の各物件並びに茂原カントリー倶楽部の会員権を売却し、更に、平成八年四月には千代田区一番町の物件を一億五〇〇〇万円で売却し(代金合計二億九二三二万六六七九円)、平成八年四月時点における東京三菱銀行市ヶ谷支店の原告名義の口座だけでも残高が約一億九〇〇〇万円あったのに、平成九年七月には六八九九万九二八一円にまで減少させた。右の売却代金のうち、原告が承諾した支出ないし引出しの総額は一億三八九一万〇三九一円(広尾ガーデンヒルズ購入時融資残金支払一五四万三七四七円、中山カントリー倶楽部購入代金二七五八万五五四〇円、シティークラブオブ東京入会金八〇〇万円、茂原カントリー倶楽部購入時融資残金支払七八万一一〇二円、前記不動産等にかかる譲渡所得税三二〇〇万〇七二一円及び残金の六八九九万九二八一円)であって、その差額一億五三四一万六二八八円のうち、被告は、七三九二万七九六〇円について使途を明らかにせず、また、使途を明らかにしたもののうち、ブローチ等六二五万円、家具五八七万一九三五円、カーテン等三五〇万円、アンティーク家具五〇万円、絵画二〇万円、バンクリフブローチ等一〇〇万円、イエローサファイア五〇万円の支出はいずれも被告の浪費である。

(二) また、原告の収入は月額約一〇〇万円ないし一一〇万円であり、原告名義のあさひ銀行市ヶ谷支店の口座に振り込まれ、右口座からは保険料・電話料金・ガス料金等が引き落とされていたが、更に被告は、セゾンカード、ディーシーカード、ダイナースカード、三越カード等を使用して、平成元年から平成九年六月までの間に少なくとも合計五六七七万五六三一円を引き落とした。

被告は、右のカード使用によって洋服、靴、ソックス、ストッキング、スポーツ用品、化粧品、ゲーム玩具等、高級品・日常品の殆どを購入するなどして、原告の給与振込額を上回る支出をし、通常の主婦では考えられない浪費をしていた。そのため、昭和六〇年頃からカード利用代金が資金不足により決済されないことがあり、原告は被告に注意していたが、再三の資金不足により取り消しとなったカードもあるほか、昭和六二年には被告のダイナースカード利用代金が月額五、六〇万円となり、引き落とし不能となって、原告が祖母に頼んで援助を受けることがあった。

また、平成元年から三年にかけて原告が米国に留学した際にも、被告は家事一切をせず、家政婦を同行させたばかりでなく、カードを使用して多額の支出をした。

(三) 被告は、原告を含むA家が破産状態にあることを知っており、少なくとも、原告が有限会社Aコーポレーションに二、三億円の負債があることを知っていた。それにもかかわらず、被告は、前記のとおり預金を激減させるような生活をし、その使途さえ説明できないでいる。

(四) 以上のような被告の浪費は常識では考えられないものであり、婚姻関係を継続し難い重大な事由にあたり、また、原告と被告の婚姻関係は完全に破綻していて修復の余地はないというべきである。

すなわち、原告は、平成九年七月一日、被告から、パジャマ等が入った紙袋を二つ持たされて「二度とこの敷居をまたぐな、あっちへ行け」と言われて家を出、Dと同居するようになったものであり、以来、被告とは別居状態にある。原告は、前記のような被告の浪費や使途不明金の存在から被告に対する愛情を失い、別居後すぐに離婚調停の申立てをして離婚の意思を明確にしたのに対し、被告は、月額二二〇万円という高額の婚姻費用の請求をしてきたばかりでなく、原告の祖母が死亡した際の遺産相続においても、同人の養子となっていた原告と被告がそれぞれの権利を主張するなど、完全な対立状態にある。しかも、原告は、被告との別居後、Dと同居し、同人との間にはE、Fの二人の子供をもうけており、今後も同人らと暮らして被告のもとに戻る意思は全くない。被告自身、本件訴訟では離婚を争っているが、調停事件では離婚成立のための具体的条件を提示していたものであって、離婚意思があることは明確である。

(被告の主張)

(一) 被告は、預金通帳や銀行印を預かり、生活費については一定の裁量が与えられていたばかりでなく、それ以外については常に原告の指示で入出金をしていた。原告主張の銀行口座から引き落とした金員は、原告の認める入会金、ゴルフ会員権購入代金などのほか、株式購入代金や、複数回の家族の海外旅行費用、子供の学費・塾費用・サマースクール費用、マンション賃料、家具・調度品、交際費(進物を含む)などに使用し、これらは原告が知悉していたものである。なお、フランス旅行の際のホテル宿泊費用は被告の友人が負担したものである。

(二) また、クレジットカード使用による支出も、A家関係の支払にあてたものであり、その内訳が明らかなものだけでも、子供関係が二四七万一九九四円、原告関係が一九七七万一三三〇円、被告関係が一九〇九万二四七四円であって、必ずしも被告が私的に使用したものではない。

(三) 原告は、その祖母が高橋是清の孫であり、何代も続いたAの名にこだわり、ステイタス志向が強かったため、パーティに出席することが多く、その際に被告にも着飾らせて満足するところがあり、衣装代・装飾品代等の被告関係の支出が高額になっていたのはそのためである。これらの購入には原告がほとんど同伴し、原告の趣味に合わせて購入したものである。

また、原告は、A病院の院長として、海外に留学したり、海外からの訪問者を接待したり、新軽井沢ゴルフ倶楽部で原告主催のコンペを毎年二回開催し、その際の賞品は全て原告が持ち出しで実施していたほか、お歳暮やお中元などの贈答品を送るなど、多額の接待・交際費を支出していたうえ、家政婦を使用していたのも原告の好みによるものである。しかも、原告は、結婚当初から生活費等を祖母や母に頼りきり、その援助のもとに、学生結婚であるにもかかわらずベンツを乗り回したり、家政婦を雇ったりし、その後も、子供二人を双樹や慶應義塾幼稚舎に通わせたり、ハーバードへ留学したりしていた。また、原告は、A病院の経営を巡ってその母と仲違いし、交際費を止められるようになってからも、不動産などの売却代金によって金銭的には不自由なく暮らし、平成八年一〇月に祖母が他界した後も、相続財産を取得できる見込みだったため、平成九年六月までは金銭の支出を巡って原告と被告が口論することは全くなく、原告が被告からカードを取り上げることもなかった。

被告には原告の主張するような浪費はなく、また、原告の不貞は一過性のものであり、被告には原告との離婚に応ずる意思は全くない。

2  原告の請求は有責配偶者からの離婚請求として許容されないものか

(被告の主張)

原告は、被告との婚姻関係が継続していた平成八年暮れころからDと男女関係をもち、不貞な行為をしている有責配偶者である。被告は、別居に至るまで原告から浪費を指摘されたことはなく、原告の主張は、不貞の相手方であるDと婚姻をしたいがための口実にすぎず、原告の主張は著しく正義に反するものである。

すなわち、原告と被告は、平成九年五、六月の段階においても、連休に家族で別荘に行ってゴルフをしたり、ローズボールのパーティ、寺田悦子のピアノコンサート、小田氏との会食などに夫婦で出席したり、家族らで子供や原告自身の誕生会をするなどして幸せに暮らしていたばかりでなく、自宅買換えのために不動産を探すなど、婚姻継続を前提とした行動をしていた。

また、原告と被告は、婚姻後、原告がDと同居するまでの約二二年以上の間、円満な夫婦生活を継続しており、その間には高校・大学への進学や就職を控えた二人の未成熟子がいて、片親だけとなることが大きなハンディになることは明らかであり、また、いずれも高橋是清の末裔であるA家の跡取りとして慶應義塾幼稚舎・慶應義塾高校へと進学しているにかかわらず、離婚が認められるとすれば肩身の狭い思いをし、人生を狂わせることになる。

(原告の主張)

原告は、被告が浪費をし、家事を全く行わないことに絶えず不満をもち、平成七年頃からは性的交渉も全くなくなり、家庭内別居状態にあった。平成八年一二月ころ、それまで原告の税金を支払っていた有限会社Aコーポレーションから、経営悪化を理由に個人預金からの支払を要求され、原告が預金残高を確認したところ、予想をはるかに下回る額となっており、被告に対して問いただしても被告はこれを無視し、通帳をみせることもしなかったため、原告は被告との離婚を決意し、更に、平成九年三月に至り、被告が、通帳のコピーの一部を僅かの時間見せただけで破り捨て、預金残高の減少を説明することもなかったため、同月二〇日に、被告に対し、離婚の意思を明確に伝えたものである。原告とDとの交際は、その後の同年四月ころに始まり、前記のとおりの事情により別居に至ったものであって、婚姻関係の破綻の原因はあくまでも被告にあり、原告にはない。

また、婚姻関係破綻の原因の一部が原告側にあったとしても、その比重は被告に比べて低く、しかも、被告は、Jの養子として遺産分割により五〇〇〇万円と市川市平田所在の土地建物を取得し、その物件の賃料収入として月額七〇万円弱を得ているほか、東京三菱銀行市ヶ谷支店の原告名義の預金を折半して約三五〇〇万円を取得しているから、被告が通常の生活を行う限り、原告と離婚しても経済的に困窮することはない。

第三裁判所の判断

一  後掲各証拠によれば以下の事実が認められる。

1  原告は、父G、母H(以下「母H」という。)の長男であり、いまだ学生であった昭和五〇年五月に被告と婚姻し、昭和五三年七月に被告とともに原告の祖父母であるI(以下「祖父I」という。)、J(以下「祖母J」という。)夫妻の養子となったが、祖父Iは昭和六〇年八月に、祖母Jは平成八年一〇月に、それぞれ死亡している。原告は、東京慈恵会医科大学卒業後、医師資格を取得して同病院等に勤務し、平成元年から約一年半ほどボストンに留学した後、平成四年一〇月に御茶ノ水A病院院長となり、平成九年一〇月からは荒川A病院に副院長として勤務している。

被告は、慶応大学卒業後まもなくして原告と婚姻し、その後は専ら専業主婦として家庭に入り、格別の仕事はしていない(甲第一〇、第一七、第三〇号証、乙第五、第七八号証、原告本人尋問の結果)。

2  原告と被告は、婚姻後、一時原告の単身赴任による別居期間はあったものの、昭和五四年ころまでは祖父I所有の港区赤坂所在のマンションで、その後は、同じく祖父I所有(後に原告と被告が相続)の千代田区一番町所在のマンションに居住し、平成八年四月ころに同マンションを売却した後は港区南麻布所在のマンションを賃借して同居していたが、原告は、平成九年七月ころに被告と別居し、頭書住所地のマンションに居住している。

原告らは、婚姻当初、原告の同族らが経営する有限会社Aコーポレーションなどの同族会社(以下単に「同族会社」という。)から原告に対して給与名目で支給される約一五万円程度の収入しかなかったが、長男Bの誕生前後から家政婦を雇うようになり、右の収入で不足する生活費用等は全て同族会社ないし祖母Jらが負担し、原告の医師勤務による給与所得が増加した後も右のような関係は継続し、原告がボストンに留学した際には、留学費用ないしその間の生活・交際等の費用として祖母Jないし母Hを介して同族会社から三〇〇〇万円前後の援助を受けていた。

原告は、特に祖母Jの庇護を受け、同人を介して様々な援助を受けていたが、同人は平成八年一〇月に死亡し、他方、原告と母Hとの間にはA病院の経営や遺産を巡る確執があり、平成九年三月ころからは、原告に対する同族会社からの支払はされていない(甲第一七号証、乙第一五号証、原告・被告各本人尋問の結果)。

3  原告の祖母Jないし母Hらは、同族会社を利用して祖父Iの遺産ないし同人からの相続債務の管理や各種税金対策をしてきたが、平成六年五月ころに、会社関係の資料を検討した公認会計士から、母H宛に「借入金返済計画の件」と題する書面が送付され、その中で右の会計士は、<1>相続開始後約八年半で相続人の債務が約五億六〇〇〇万円返済されているが、他方で同族会社からの借り入れが約五億二〇〇〇万円増加しており、銀行からの直接借り入れが同族会社を経由した間接借り入れに変わっただけで、実質的返済は相続人四名全員で四〇〇〇万円程度にすぎないこと、<2>しかも、譲渡所得税を回避するため、税法上の「買換え適用」対象資産を購入し、その資金を銀行借入としたことにより更にその元利金の返済の負担が生じていること、<3>更に、原告ら兄弟が、源泉徴収分以外の所得税及び個人的支払など本来個人が負担すべきものが不動産所得及び不動産譲渡所得から全て支払われていること、<4>現状では各個人とも自己破産に等しい状態であって、これを回避するためには、不動産収入から支払っている個人的支払分を本人に支払わせること、その結果各人の自由になる家計費が減少することとなるが、生活水準を落とす覚悟も必要であり、また、返済期の延長や売却可能物件を順次譲渡することが不可欠であること、<5>同族会社の存在は、借金返済に関しては事態の逼迫という情報を希薄にした点でマイナスであったこと、などを指摘した。

なお、原告は、同人名義の不動産の収入は年間約一五〇〇万円があるが、相続債務の立替等のために同族会社等に対して約二億円の債務があるほか、同族会社や母Hの債務合計約一一億円についても個人保証している(甲第二三、第三二号証、原告本人尋問の結果)。

4  原告らは、平成七年三月から六月にかけて、二件の不動産とゴルフクラブ会員権を売却し、更に、平成八年四月には原告らが居住していた一番町所在のマンションを売却して代金合計約二億九二三〇万円を取得した。売却代金の一部は東京三菱銀行市ヶ谷支店などの原告名義の預金口座に入金され、同支店の口座には平成八年四月八日現在の残高約四〇〇〇万円とあわせて約一億九〇〇〇万円が預け入れられたが、同口座からは平成九年七月までに約一億二一〇〇万円が引き出され、残額は約六九〇〇万円となった。右の売却代金合計約二億九二三〇万円から預金残額を控除した二億二三三〇万円のうち、約六九九〇万円は原告の了承のもとにゴルフ会員権購入代金や譲渡所得税などの支払にあてられた(争いがない)。

右の預金の通帳・印鑑は主として被告が管理していたが、被告は、右の売却代金残額のうち、更に、二〇〇〇万円を定期預金とし、約四八〇万円は株式購入代金として支払ったほか、約二三五〇万円は、平成八年四月から六月にかけて、一番町のマンションを売却して南麻布のマンションを賃借して転居したことに伴う不動産の売却手数料や新規マンションの敷金・家賃及び転居費用、家具(大塚家具店)・カーテン等の購入・取付費用として、約一一〇〇万円は、平成七、八年の家族での海外旅行や海外の知人が来日した際の招待旅行の費用として、約四〇〇万円は資産売却諸費用残金や車両購入頭金などのために、それぞれ支出した(甲第一七号証、乙第九、第一五号証の一、二、第一六号証の一ないし三、第二二、第二三、第二八ないし三〇号証、被告本人尋問の結果)。

また、二人の子供が慶應義塾高校、慶應義塾幼稚舎に在籍していたため、被告は、その学費として、平成八年から同九年七月までの分だけで約五五〇万円を支払い、更に、塾の費用及びテニスやゴルフなどの部活動費用として、同じく右の期間中の分だけで少なくとも二五〇万円を超える金員を支払っており、これらの支出からすると、平成七年三月以降の期間では合計一二〇〇万円前後の額を支出したものと認められるほか、毎月の経常費として、家政婦の費用月額約三〇万円、食料品・小遣いその他家政婦を通して出費している生活雑費として月額約三〇万円、南麻布に転居した後はマンション賃料として月額八〇万円を支払っており、平成七年三月以降の合計では約二九四〇万円前後の金員を支出したものと認められる(乙第一九号証の二、第二〇号証の一ないし三、第五ないし九号証、第二一、第三二、第三五、第三七ないし三九号証、第四〇号証の一、二、第四六号証、被告本人尋問の結果)。

更に、被告は、ブローチ等の宝飾品購入に九〇〇万円を超える支出をし、原告からDとの関係を告白されたころに、洋服などをいわゆるストレス買いして三〇〇万円程度を支出したほか、頻繁にゴルフなどにでかけるようになった(乙第六、第一八号証の一ないし四)。

5  また、原告は、平成四年以降、A病院勤務による給与として月額約一〇〇万円の収入を、更に、同族会社からの役員報酬として月額約四〇万円の収入を得ており、これらはあさひ銀行市ヶ谷支店の原告名義の口座に振り込まれていた(ただし、役員報酬については平成五年五月以降は前記会社名義での振込みはなく、本人名義の振込みや明治生命の保険解約返戻金などの入金で収支が図られ、平成六年二月以降はA病院名義で更に三〇ないし六〇万円程度の金員が振り込まれていた。)。右口座からは、電気・ガス・電話の各料金や保険料などとして月額二、三〇万円の支払がされていたほか、クレディセゾン、ダイナース、ディーシーなどのカード使用による引き落としがあり、その額は、平成四年以降毎年一〇〇〇万円前後であり、更に、現金の引き落としなどもあって、この間の右口座の残高が数十万程度の貸し越しの状態となることが多く、また、残高不足のため契約が取り消されたカードもあった。

右のカードは、平成九年六月ころまでは主として被告が自由に使用し、これらの支出のうち、被告自身のための使用分が衣装・宝飾品を中心に少なくとも約一九〇〇万円あり、被告はこれらの商品を主として西武百貨店ジョルジォ・アルマーニ・ショップで購入していた(甲第一ないし七、第一三、第一五、第一六、第一七号証、乙第一ないし四号証、第一〇、第一一号証の一ないし五、第一二号証)。

6  原告と被告は、ゴルフ、パーティー、旅行などを好み、しかも、しばしばこれらを自ら主催するなどして知人らをもてなしたり、贈答品を贈るなどしていたが、平成九年五月の時点でも、連休に軽井沢に滞在してゴルフをしたり、パーティでワンテーブルを買い切り友人らを招待したり、ピアノコンサート鑑賞にかかわるパーティに参加したり、子供の誕生パーティを開催して子供の友人を招待したり、木更津でゴルフをしたりするなどの社交・接待をし、原告主催のゴルフコンペに際しては、百貨店の外商・宝飾・時計などの社員を招待していた。

これらのコンペの賞品や贈答品の購入、外食の際の飲食費などの支払、原告と被告を含む家族のレジャー用品ないし衣料品や前記5認定のような被告自身の衣装・宝飾品などの購入代金の支払は、前記5の各種カードの使用などによって主として被告が支払っていたが、前記5の百貨店での買物の際も、その多くの場合に原告が同伴してアドバイスをし、被告が迷うと高価なものを選択することがあったり、前記4の大塚家具店での家具購入に際しても原告が同伴して注文したものもあり、そうした夫婦同伴での買物は、平成九年五、六月頃まで継続していた。また、原告は、平成八年四月ころに、家賃が月額約八〇万円であったのに、外国で購入した家具が入るからとして自らマンション賃借の契約をし、更に、別居直前まで被告とともに自宅とするための物件を探し、購入価格として四ないし五億円前後の不動産を念頭に置いていて、銀行借入をも検討し、返済モデルの照会をしていた(乙第五号証、第六一号証の一、二、第六二ないし六九号証、第七五ないし七八号証、原告・被告各本人尋問の結果。原告本人尋問の結果及び甲第一七、第一八、第三六号証の各記載中これに反する部分は採用できない。)。

7  原告は、平成八年六月からA病院に準看護婦として勤務していたD(昭和四七年三月生。以下「D」という。)と、平成八年一二月ころから肉体関係をもつようになり、平成九年三月二〇日には被告に対して好きな人ができた旨告白したうえ、同年七月ころ以降はDと同棲し、同人との間に、E(平成一〇年三月一〇日生)とF(平成一一年七月三一日生)の二人の子をもうけ、それぞれ認知している。

また、原告は、Dとの同棲前後に、銀行借入を前提にして病院を建設しようとしたり、Dとビジネスクラスを利用してハワイ旅行をしていた(甲第二二、第三〇、第三四号証、乙第六〇、第七八、第七九号証、原告・被告各本人尋問の結果。原告本人尋問の結果及び乙第七九号証の記載中これに反する部分は採用できない。)。

8  原告は、被告との別居前後の平成九年七月七日に東京三菱銀行の前記口座について通帳・印章の喪失届けないし改印届けをし、また、別居後に離婚調停の申立てをし、その中で初めて被告の浪費が離婚原因である旨言及していたが、右の調停は、平成九年一二月三日に不成立となり、同月二六日に本件訴訟を提起した(なお、原告は、右離婚調停において、被告は離婚に同意し、財産給付の条件面での不一致により不成立になったにすぎない旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)。

この間、被告は、婚姻費用分担の調停を申し立て、更に、月額二二〇万円の婚姻費用の支払を求めて仮払仮処分の申立てをしたが、月額二〇万の支払を命ずる仮処分決定がされ、原告はこれに従っている。その後、原告と被告は、前記の東京三菱銀行の預金残額を二分して取得し、更に、平成一一年四月一六日には祖母Jの遺産に関する分割調停が成立し、被告は、共同住宅のほか、代償金として母Hから五〇〇〇万円の支払を受けることとなり、右住宅の賃料として月額約六〇万円程度の収入を得ている。

被告は、原告ら兄弟及び母Hが相続取得した頭書肩書地所在のマンションを事実上使用して二人の子供と生活しており、長男は大学受験のため浪人し、二男は中学に在籍しているが、被告は、子供ら、特に長男についてはその志望である私立大学医学部に入学させることを望み、また、原告とDとの関係が一時的なものであるとして離婚に反対している(甲第二四、第二六ないし二九号証、原告・被告各本人尋問の結果)。

二  以上の事実をもとに検討すると、平成七年三月以降に処分した不動産などの資産の売却代金のうち、三千数百万円については具体的使途が必ずしも明確ではないとはいえるものの、前記認定のような原告及び被告のそれまでの生活態様に鑑みると、右の金員が、平成七年三月以降平成九年六月までの間に、社交・接待費、生活・教育費、ゴルフなどのレジャー・娯楽費用、被告の被服費等として現金で支出されたとしても必ずしも不自然なものではなく、他に被告がこれを隠匿したと認めるに足りる証拠はない。

もっとも、以上に認定のような現金支出ないしカード使用による支出の多くは、原告ら夫婦の客観的な資産ないし収入を基準として事後的・合理的に考える限り、その額や使途の面からみて明らかに浪費と評価すべきものであり、また、その支出の多くは被告が直接行っていたものではあるが、前記認定の事実からすれば、被告自身のためにした支出を含め、その多くは被告が独断専行して行ったものではなく、むしろ原告自身が望んでいたものであり、少なくとも原告がこれを容認し同調していたものというべきであって、原告がDと関係をもつに至った平成八年一二月ころの段階において、右のような被告の支出行為が原因で原告と被告との婚姻関係が継続し難い客観的状況にあったということはできないというべきである。

この点、原告は、昭和の年代から既に被告に対して浪費を注意していた旨供述しているところ、カードの決済資金の残高がしばしばなくなり、原告自身の名義による入金がされたことがあり、契約が取り消されたカードもあったこと、また、平成六年ころには原告らは既に実質的破産状態にあり、原告の母Hにはその旨報告されていたことは前記認定のとおりであるが、右の報告を原告が知った時期についての原告の供述は曖昧であるうえ、平成八年一〇月に祖母Jが他界するまでは原告に対して同人の強い庇護と援助があったこと、他方、原告自身が、平成九年五、六月ころまでは前記のような社交・接待にかかわり、また、転居にかかわる多額の支出にも関与していたこと、更に、原告が、その供述のとおり、相当以前から被告の浪費を問題とし、これが婚姻関係を左右する重大なものであると考えていたのであれば、その旨明確に問題を指摘して婚姻関係の継続が困難となる旨忠告して改善を求めたり、あるいはカードの解約ないし預金の凍結をしたり、カードの管理を原告自ら行なうなどしてしかるべきであるのにこれをせず、東京三菱銀行に対して通帳等の喪失届けをしたのは、別居前後の平成九年七月七日であり、離婚の理由が浪費にあることを被告に明確に伝えたのも別居後の離婚調停に至ってからであることなどの前記認定の事実を考慮すると、原告が以前から支出に関して被告になんらかの言及をしていたとしても、それが原告及び被告のそれまでの生活態様を改めるべく真摯かつ具体的にされたものと認めるには十分ではなく、そのような中で被告が前記のような支出をしていたとしても、これが婚姻関係を継続し難い重大な事由にあたるとまではいうことができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

三  もっとも、原告と被告は、平成九年七月ころから別居し、その期間は二年七ないし八ヶ月に及び、この間、原告はDとの間に二人の子供をもうけて同人と同棲し、被告との離婚を強く望んでいるという現在の状況に鑑みると、被告が原告との婚姻関係の維持を切望していたとしても、原告と被告との婚姻関係は破綻ないし形骸化しているということもできる。

しかし、前記認定のとおり、原告は、被告との婚姻関係がなお継続し、また、被告の浪費についても原告被告間では格別の問題とされてもいなかった平成八年一二月ころから既にDと関係をもち、平成九年三月には同人の存在を被告にうち明けるなどしたうえ、同年七月ころには別居してDと同棲しているのであるから、前記のような状態に立ち至らせた原因は主として原告の右のような不貞行為にあり、原告は有責配偶者であるというべきである。

これに対し、原告は、平成八年一二月ころ、同族会社から税金などの自己負担を求められて預金残高の予想以上の減少に気付き、被告に説明を求めても被告は明確な回答をせず、平成九年三月に通帳のコピーの一部を見せる程度の対応しかしなかったことをきっかけに離婚を決意した旨主張し、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分もあるが、前記認定のとおり、平成八年一二月から平成九年三月にかけての時期はまさに原告の不貞行為が進行していた時期に一致するばかりでなく、原告が被告に預金の開示を迫ったのは平成九年六月末ころであった旨の被告本人尋問の結果及び乙第七八号証の記載並びに前記二の事情を考慮すると、原告の右の供述は直ちに採用できず、他に原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

そして、原告と被告は、一時単身赴任はあったものの、婚姻後約二二年にわたって同居して婚姻関係を継続し、別居期間はいまだ二年七ないし八ヶ月程度にすぎず、また、その間には二人の未成熟子がおり、一人は中学に在籍していることなど前記認定のような事情を考慮すると、被告が前記認定のような資産ないし預金を有し、また、月額六〇万円程度の賃料収入があることなどの諸事情を考慮しても、いまだ原告の請求は信義に反し、許容されないものというべきであり、他に原告からの離婚を認容すべき特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

四  以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 齋藤憲次)

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